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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)3731号 判決

原告

安間俊三

ほか一名

被告

神滋秀明会

主文

一  被告は、原告安間俊三に対し、八〇万九七四九円及びこれに対する昭和五八年一〇月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を、原告サカエ商事株式会社に対し、一八二万二三九九円及びこれに対する昭和六〇年九月一日以降完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の主張

一  請求の趣旨

1  被告は、原告安間俊三(以下原告安間という。)に対し、二三一万二〇六〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告サカエ商事株式会社(以下原告会社という。)に対し、一〇六七万七五三四円及びこれに対する昭和六〇年九月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下本件事故という。)の発生

(一) 日時 昭和五八年一〇月三〇日午後一時三〇分ころ

(二) 場所 滋賀県大津市上田上大鳥居町五八五番地先県道上(以下本件現場という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(神戸五七や六四九二)

右運転者 訴外西村直喜(以下西村という。)

(四) 被害車 普通乗用自動車(大阪三三な八八三六)

右運転者 訴外佐藤伝(以下佐藤という。)

(五) 態様 西村は、加害車を運転し被害車の後方を進行中、被害車が急停止したのを前方に認め、急制動の措置を採つたが間に合わず、原告安間がその助手席に同乗していた被害車に加害車前部を追突させた。

2  責任原因

被告は、加害車を所有し、本件事故発生当時、自己のために運行の用に供していた。

3  損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

原告安間は、本件事故により、頸椎捻挫の傷発を受けた。

(2) 治療経過

原告安間は、原外科に、昭和五八年一一月五日から昭和六〇年八月一九日まで六五四日のうち三五一日実通院した。

(二) 原告安間の損害額 二三一万二〇六〇円

(1) 治療費 一三一万二〇六〇円

(2) 慰謝料 八〇万円

(3) 弁護士費用 二〇万円

(三) 原告会社の損害額 一〇六七万七五三四円

原告安間は、原告会社の代表取締役であるところ、原告会社は、原告安間に対し、昭和五八年は年一〇二〇万円、昭和五九年以降は毎年一二〇〇万円の給与を支給したが、原告安間は、昭和五八年一一月五日から昭和六〇年八月一九日までの間平均して約五割就労不能であつた。しかるところ、原告会社は、原告安間の右就労不能期間中も、右のとおり給与を支給したので、民法四二二条、または同法四九九条、あるいは、同法六九七条、または同法七〇二条の類推適用により、原告安間の被告に対する損害賠償請求権を就労不能部分に対応する限度で代位取得した。そして、原告安間の就労不能部分に対応する給与額は頭書金額となる。

{1020万(円)×63/365+1200万(円)×596/365}×0.5=1067万7534(円)

なお、会社は組織によつて動くものであり、また景気変動その他の外的要因によつて営業成績は左右されるものであるから、原告会社の営業成績のみを判断基準として原告安間の就労能力を云々するのは相当ではない。同原告の就労制限がなければ、原告会社はもつと素晴らしい営業成績をあげていたかもわからないし、同原告の就労制限による悪影響が将来出てくる可能性も否定出来ない。

よつて、原告安間は、本件事故による損害賠償として、被告に対し、二三一万二〇六〇円及びこれに対する本法不法行為の日である昭和五八年一〇月三〇日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告会社は、代位取得した本件事故による損害賠償として、被告に対し、一〇六七万七五三四円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和六〇年九月一日以降完済まで右同様の遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の各事実及び同2の事実は、いずれも認める。

2  同3(一)(1)の事実は否認し、同(一)(2)の事実は不知、同(二)(三)の各事実はいずれも否認する。

(一) 原告安間の受傷、治療経過等について

(1) 被告の主張は次のとおりである。

本件事故は加害車が被害車に追突して発生したもとであるが、その追突の際の衝撃は小さく、加害車の運転者西村及び同乗者二名並びに被害車の運転者佐藤はいずれも負傷しなかつた。それなのに原告安間のみが負傷したということは極めて不自然である。原告安間は、本件事故発生直後、被害車からその運転者とともに下車して来て西村を叱責したが、その際、原告安間が負傷している気配は全くなかつた。さらに、本件事故発生当日、原告安間は信楽警察署に行つて事故状況を説明したが、その際も負傷したとは述べなかつた。仮に、原告安間が負傷したとしても、右の如き事実から考えてその程度は極めて軽微であつたはずであり、同厚告に対する治療は過剰治療である。

(2) 補助参加人の主張は次のとおりである。

本件は軽微な追突事故であり、人身障害が発生する程のものではない。被害車の損傷はバンパーのみであり、運転者佐藤は負傷していない。そもそも、追突によつて鞭打損傷が発生するためには、被害車が少なくとも一メートル程度前に押し出されなければならないところ、本件では、〇・六メートル程度前へ押し出されたにすぎない。仮に、傷害が発生したとしても、ごく軽いものであり、極めて短期間に治癒すべきものである。原告安間には頸椎変形性の既往症があり、これが治療長期化に大きく関与している。ところで、原告安間は、昭和六〇年八月一九日まで約二年間弱の間延々と通院しているが、原医師自身、事故後八ケ月で症状は固定したと明言している。本件事故と原告安間の症状との間には、社会的、心理的因果関係(追突されたことからくる被害者意識及び物損の新車要求をしたのに被告が応じないことからくる腹立ちが既往の変形性頸椎症と相俟つて生じさせた不定愁訴)はありえても、事故による身体の損傷という法的因果関係は存しない。仮にそうでないとしても、症状は昭和五九年七月二五日には固定したから、それ以降の治療は相当因果関係を欠き、かつ症状固定までの損害についても本件事故の寄与度は僅少である。原告安間の初診が事故後一週間も経てからであることは、社会的、心理的要因による愁訴の発現を示唆するものである。

(二) 原告会社の損害賠償請求について

(1) 被告の主張は次のとおりである。

就労不能による休業補償請求権は当該事故によつて被害者が就労不能となりそのために現実に給与の支払いが受けられなかつたときに発生する。したがつて、原告安間の被告に対する就労不能による休業補償請求権は原告会社が現実に原告安間に給与を支払らわなかつたときは発生するが、原告会社が原告安間に現実に給与を支払つている本件では発生する余地はなく、原告会社によるその代位取得ということもありえない。仮に、休業損害を肩代りして支払つた勤務先の求償請求が代表取締役の休業損害についても認められるべきであるとしても、原告安間の具体的休業損害の額は同原告が真に如何なる程度就労不能の状態にあつたかということと同原告の正当な給与額を基に算定すべきである。ところで、原告安間は、本件事故によつて就労不能になつておらず、また、同原告の給与額は正当なものではない。原告安間が、就労不能であつたとすれば給与額は減額されることはあつても増額されることは到底なかつたはずである。一般に、会社の代表取締役は会社の最高責任者として時間的には自由に随時にかつ随意の場所において会社のために活動するものである。代表取締役が交通事故によつて通院治療したからといつて一般従業員なみに就労不能になつたとはいえない。原告安間については昭和五八年よりも昭和五九年の方がその給与額が増額されていることは、原告安間が就労不能になつていないことを示すものである。原告安間が真に平均して五割就労不能であつたならば、そのような者は会社の最高責任者たる代表取締役の任に耐えない者として自から辞任するか解任されるべきである。自から辞任もせず、また解任されず、そして給与は逆に増額されている。さらに、原告安間が一〇〇パーセント就労していたという昭和五六年四月から昭和五八年三月の二年間の営業利益は赤字であるのに、本件事故の影響を受けるべき昭和五八年四月から昭和六〇年三月の二年間の営業利益は黒字になつていて、原告安間が五割就労不能であつたという期間の方が一〇〇パーセント就労したという期間よりも営業成績は良い。働かない方が会社の業績を向上させるというような者の給与額はそもそも正当なものとはいえず、水増しされた給与額と言う外はない。さらに、原告会社が株式配当を全く実施していないという点からも原告安間の給与額は株式配当分も含めたもので正当な給与額とはいえない。

(2) 補助参加人の主張は次のとおりである。

原告安間が昇給している事実は、同人の就労能力には何ら変化がなかつたとの事実を強く推認させる。原告会社の決算報告書によつても、最も影響を受くべき昭和五八年四月から昭和五九年三月、同年四月から昭和六〇年三月の二年間について、営業利益は黒字である。むしろ原告安間が一〇〇パーセント就労していたという昭和五六年四月から昭和五八年三月の二年間は営業利益は赤字である。原告安間が、五割就労しえず、そのため原告会社に減収が生じた証拠はどこにもない。むしろ増益している。

三  抗弁

1  免責

本件事故は、被害車運転者佐藤の故意または重大な過失によつて発生したものであり、加害車運転者西村には何ら過失がなく、かつ、加害車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告には損害賠償責任がない。すなわち、加害車は、大津信楽線県道上を信楽方向に進行中、本件現場の約二キロメートル手前で時速約三〇キロメートルないしそれ以下でのろのろ運転中の被害車に追いついた。加害車は、進路がふさがれた状態になつたので、警笛を鳴らしたり前照燈を点滅させたりして被害車に速度を上げるよう促したが、被害車はのろのろ運転を続け、時には急に加速して速度を時速四〇キロメートル以上に上げ、次にまたすぐに時速約三〇キロメートルないしそれ以下に減速してのろのろ運転をしたり、加害車が道幅の広いところで警笛を鳴らす等の所要の合図をして被害車を追い越そうとすると同車は、わざと自車を道路中央に寄せて追い越しを妨害したりするなどを繰り返し、加害車の正常な走行を妨害していた。このような状況の後、加害車は、本件現場の手前約二五〇メートルないし約二〇〇メートルのところで、のろのろ運転中の被害車をさらに追い越そうとしたところ、被害車は、このときも自車をわざと道路中央に寄せて追越を妨害した。そして、その直後、被害車は、急に速度を時速四〇キロメートル以上に上げたので、加害車も速度を時速約四〇キロメートルに上げて追従したところ、被害車は、急に速度を時速約三〇キロメートルに減速したため、両車の車間距離が約七・五メートルに縮まつた。その直後、佐藤は、直ぐ後方に加害車が追従していることを十分に認識しておりながら、かつ、何ら急停止しなければならない理由はなかつたのに、故意に、仮に故意でない場合は重大なる過失によつて、被害車を急停止させた。加害車は、これを前方に認めて直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず、その前部が被害車後部に追突して本件事故が発生した。なお、原告らは、後記四、1のとおり主張するところ、クラツチペダルとブレーキペダルを踏み間違える如きは全く初歩的な運転操作の誤りである。佐藤は、普段はノークラツチ車を運転していて、本件事故のときはなれないクラツチ付車を運転していたというのであるから、その運転について十分注意すべきであつたのであり、その過失は重大である。このように、本件事故は、被害車が悪質な走行妨害行為を繰り返した結果、両車の車間距離が縮められ、かつ、その直後、加害車が車間距離を十分にとるいとまもなく被害車の不適法な急停止によつて発生したものであり、被害車に重大な責任がある。そして、本件事故発生に至る右の経過によれば、加害車の運転者西村には過失はなかつたものというべきである。

2  過失相殺

仮に、免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については、被害車の運転者佐藤に前記のとおり故意または重大な過失があるから、被害車側の過失として損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。すなわち、

被害車は原告会社の所有であり、原告会社の代表取締役である原告安間が同車に乗車し、佐藤が原告会社の業務の執行につき同車を運転中に本件事故が発生した。原告安間及び原告会社は、ともに被害車の運行を支配し、かつ、運行によつて利益を得べき立場にあつたから、原告安間及び原告会社は、自賠法三条の運行供用者として、佐藤の故意または過失によつて発生した本件事故について責任がある。また、原告安間は原告会社の代表取締役として原告会社所有の被害車に乗車し、かつ、同車を佐藤に運転させていたのであるから、佐藤に適切な指示命令ないし助言監督をして安全な運転をさせるべき義務があつたのに居眠りなどをしてこれを怠つたため、佐藤の故意または過失によつて本件事故は発生したのであるから、原告らには本件事故発生について責任がある。原告らの、右責任が過失相殺の対象になるのは当然である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。すなわち、

佐藤は被害車の運転や道路に不馴れであつたため低速度で走行し、本件現場手前を時速約二〇キロメートルで進行した際、後方から警笛を鳴らされ後方を確認したところ加害車ほか数台の後続車があつたので、加速しようと考え、あわててクラツチペダルを踏むつもりで誤つてブレーキペダルを踏んだため、急制動がかかり停止した瞬間、加害車に追突されたものであつて、故意による事故ではない。走行妨害の事実は否認する。西村は加害車を運転するに際し、先行車である被害車の動静を十分注視するとともに、同車との間に安全な車間距離をとつて進行すべき義務があるのに、これを怠たり、被害車の動静を十分に注視せず、また車間距離を十分に保持せずに漫然と進行した過失により本件事故を発生させたものであり、被告には運行供用者としての損害賠償責任がある。

2  抗弁2は否認する。原告安間は、単なる同乗者であるから、同原告には過失がない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりである。

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の各事実は当事者間に争いがない。なお、本件事故発生状況について、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第六、第一〇、第四三ないし第四五号証及び証人西村直喜の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、本件現場は上田上平野町方面から信楽方面に通ずる最高速度が時速四〇キロメートルに規制された非市街地である県道信楽大津線路上であること、本件現場付近における右道路は車道幅員約五・四メートルで中央線が引かれていない平旦なアスフアルト舗装であり、直線で見とおしはよいこと、西村は、本件事故発生当時、被告所有の加害車を運転して上田上平野町方面から信楽方面に向け時速約四〇キロメートルで右県道を進行し、本件現場手前で先行する被害車に追いつき、速度の遅い同車を追い越そうとしたものの同車が進路右方へ進行したりしたので追い越すことができなかつたこと、その後西村は、同車が加速したり減速したりして進行したため、クラクシヨンを数回鳴らすなどして同車の後方を追従していたが、本件衝突地点手前約三二・七メートルの地点付近から時速約三〇キロメートルで同車に接近進行した際、自車前方約五・四メートルの地点で急にブレーキをかけた被害車に気付き、直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず本件現場で自車前部を被害車後部に追突させたこと、一方、佐藤は、原告安間をその助手席に同乗させて原告会社所有の被害車を運転し上田上平野町方面から信楽方面に向かい右県道上を進行していたが、同車の運転や右道路に不馴れであつたため速度の安定を欠く状態で走行し、本件現場手前を時速約二〇キロメートルで進行した際、後方からクラクシヨンを鳴らされ後方を確認したところ加害車ほか数台の後続車があつたので、加速しようと考え、慌ててクラツチペダルを踏むつもりで誤つてブレーキペダルを踏んだため、急ブレーキがかかり、後方から前記のように加害車に追突され前方へ押し出されて停止したことが認められる。

二  責任原因

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。したがつて、被告は、自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故により生じた原告らの損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

1  原告安間の受傷、治療経過等

(一)  前記甲第一ないし第三号証、第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七号証、いずれも成立に争いのない甲第四七号証、丙第一、第二号証の各一、二、原告安間本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一二号証によれば、同原告は本件事故により頸椎捻挫の傷害を受けたことが認められる。右証拠に照らし、本件事故によつては原告安間は受傷しないはずであるとの被告及び補助参加人の主張は採用しない。

(二)  原告安間本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一四ないし第二八号証及び前記甲第四七号証によれば、原告安間は、頸椎捻挫の傷病名で原外科に昭和五八年一一月五日から昭和六〇年八月一九日までの間に三五一日実通院したことが認められるところ、前記甲第一二号証によれば、身体の自由が主に摂食、洗面等の起居動作に限られていると思われる期間として昭和五八年一一月五日から同月三〇日までとされていること、前記丙第一号証の一、二によれば、原告安間の労務内容如何により明確ではないが事故後二週間の安静が必要であるとされていること、同原告の年齢的なものからくる変形性脊椎症、後縦靱帯骨化症の症状が治療の長期化に関与している可能性が十分考えられるとされていること、原医師において昭和五九年七月二五日当時症状固定と考えるとされていること、前記丙第二号証の一、二によれば、原告安間の就労不能期間につき労務内容により異なるので明確には解らないが受傷後一月程度とされていること、成立に争いのない丙第三号証の一、二によれば、老齢変化には永続的治療の必要な事がよくあること、原告安間の場合、外傷性の疾患と老齢的変化による症状との区別がつきにくいとされていることなどの諸点に鑑みると、原告安間の前記治療期間のうち昭和五九年七月三一日までの治療に限り本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。

2  原告安間の損害額

(一)  治療関係費 五九万九五八二円

前記甲第一四ないし第二〇号証及び甲第四七号証によれば、昭和五九年七月三一日までの治療関係費は五九万九五八二円と認められる。(前記甲第二〇号証によれば、昭和五九年七月一三日から同年八月一一日までの治療費は六万七八〇〇円と、また、実通院日数は一七日と認められるので、右金額を一七で徐し、前記甲第四七号証によれば同年七月一三日から同月三一日までの実通院日数は一〇日であるので、これに一〇を乗じた金額に文書料三〇〇〇円を加え、一円未満の端数を切り捨てて同年七月一三日以降同月三一日までの治療関係費を算出した。)

これを超える治療関係費は、前記のとおり、本件事故と相当因果関係がない。

(二)  慰謝料 五〇万円

本件事故の態様、原告安間の傷害の部位、程度、本件事故と相当因果関係の認められる治療期間及びその経過等その他諸般の事情に鑑みれば五〇万円とするのが相当である。

3  原告会社の損害額

(一)  原告安間本人尋問の結果及びこれによりいずれも真正に成立したと認められる甲第三〇ないし第三二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告安間は原告会社の代表取締役であり、取締役報酬を含む給料として昭和五八年は年間一〇二〇万円の、同五九、六〇年はそれぞれ一二〇〇万円の支給を原告会社から受けたこと、同原告の業務内容は、土地の調査、買収交渉、官庁等との協議をなすこと、事務所内において書類の決裁をすることなどであることが認められる。ところで、原告安間本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第四九、第五〇号証、いずれも成立に争いのない甲第五一ないし第五四、第五六号証並びに乙第一号証によれば、原告会社は昭和四七年四月一七日に設立され、本件事故発生当時、土地及び中古住宅の売買の仲介、建物の賃貸をその業務としていたこと、発行済株式総数は二万四〇〇〇株、資本金は一二〇〇万円であること、株主は一〇名で、原告安間が一万株、妻の久江が五二〇〇株、長男の邦夫が五〇〇株を有し、他は親族や知人が有していること、右久江、邦夫は原告会社の取締役であること、取締役会及び株主総会は毎年一回開かれ、その議事録も作成され、決算報告書も毎年作成されていることが認められる。右によれば、原告会社は株式会社としての組織を備えた同族会社というべく、実質的に原告安間の個人企業とはいえないところであり、また、原告安間本人尋問の結果によれば、原告安間は本件事故により会社業務に従事することが相当程度制限されていたにも拘らず、その給与は昭和五九年四月に従前の年収一〇二〇万円から年収一二〇〇万円に上げられていることに鑑みれば、原告安間が昭和五八年に原告会社から給料として支給された一〇二〇万円の中には労働の対価といえない取締役報酬としての分が相当程度含まれていると考えられる。そして、原告会社の規模、業務内容、昭和五八年の原告安間の前記報酬額、昭和五九年四月の昇給額等を併せ考えれば、昭和五八年の年収一〇二〇万円のうち二割程度は取締役報酬分であり、その余の八割程度が労働の対価たる性質をもつ賃金分であるとするのが相当である。

(二)  しかるところ、前認定した原告安間の受傷の部位、程度、治療経過、業務内容等に鑑みれば、原告安間は、本件事故による受傷のため、昭和五八年一一月五日から同月三〇日までは一〇〇パーセント、同年一二月一日から昭和五九年四月三〇日までは平均して六〇パーセント、同年五月一日から同年七月三一日までは平均して二〇パーセント就労に制限を受けたと認めるのが相当である。これを超える就労制限は本件事故と相当因果関係がない。

(三)  ところで、前記甲第三〇、第三一号証及び原告安間本人尋問の結果によれば、原告会社は、原告安間の右就労制限期間中も前記のとおり給料を支払つていたことが認められるので、原告会社は、民法四二二条または同法七〇二条の類推適用により、原告安間の被告に対する損害賠償請求権を前記就労制限部分に対応する限度で代位取得すると解するのが相当である。そうすると、原告安間の前記就労制限部分に対応する賃金額は、昭和五八年の年収一〇二〇万円から労働の対価といえない取締役報酬分二割を除いた八一六万円とするのが相当であり、これを算定の基礎として算出すると、三〇三万七三三三円(一円未満切捨)となる。

816万(円)×1/12×26/30〈58.11.5.~58.11.30.〉×1=58万9333(円)

816万(円)×5/12〈58.12.1.~59.4.30.〉×0.6=204万(円)

816万(円)×3/12〈59.5.1.~59.7.31.〉×0.2=40万8000(円)

58万9333(円)+204万(円)+40万8000(円)=303万7333(円)

四  過失相殺

1  本件事故発生状況は前記一で認定したとおりであるところ、右によれば、西村は加害車を運転するに際し、先行車である被害車の動静を注視するとともに、同車との間に安全な車間距離をとつて進行すべき注意義務があるのに、これを怠たり、被害車の動静を十分注視せず、また車間距離を十分保持せずに漫然と進行した過失により本件事故を発生させたものというべきであるから、被告の免責の抗弁は失当である。

2  前記甲第五、第四四、第四五号証及び原告安間本人尋問の結果によれば、原告安間及び佐藤は、被害車が新車であつたので、その慣らし運転を兼ねて、原告会社の業務として滋賀県信楽町近辺の土地調査に赴くため、大阪府高槻市所在の原告会社事務所を本件事故発生当日の午前一一時ころ、原告安間が被害車を運転して出発し、名神高速道路の大津インターチエンジを降りたところまで同原告が運転し、その後、原告安間が前夜睡眠不足であつたこと、佐藤が運転したいと言つたこと及び原告安間が運転していると付近の土地の状況を見ることができないことから佐藤が運転し、しばらく走行した後本件事故に遭つたことが認められるところ、前記のとおり被害車は原告会社の所有であり、原告安間はその代表取締役であること、本件被害車の運行は右のとおり原告会社の業務のためであつたこと等の事情に鑑みれば、被害車運転者佐藤の過失は被害者側の過失として、これを原告らの被告に対する損害賠償請求につき斟酌するのが相当である。そして、前記一で認定した本件事故発生状況によれば、佐藤はハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作して被害車を走行させるべき注意義務があるのに、クラツチペダルを踏むつもりで誤つてブレーキペダルを踏んだため急ブレーキをかけた過失がある。しかるところ、右佐藤の過失の内容、程度及び前記西村の過失の内容、程度等前認定した本件事故発生状況、ことに、佐藤の過失はクラツチペダルとブレーキペダルを踏み間違えるという自動車運転者としての基本的な操作の誤りであるという点、また、本件現場は非市街地の一本道であり後行車の運転者としては先行車が急ブレーキをかけるなどということはおよそ予想するに困難な場所であるという点等に鑑みれば、過失相殺として原告らの損害額の四割を減ずるのが相当である。そうすると、被告において賠償すべき原告安間の損害額は六五万九七四九円(一円未満切捨)、原告会社の損害額は一八二万二三九九円(一円未満切捨)となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告安間が被告に対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は一五万円とするのが相当である。

六  結論

以上によれば、被告は、原告安間に対し、八〇万九七四九円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五八年一〇月三〇日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、原告会社に対し、一八二万二三九九円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和六〇年九月一日以降完済まで右同様の遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれをいずれも認容し、その余の各請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐堅哲生)

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